written by ちゃぶー
快晴の広島。長く伸びた行列の入場に手間取り,開演は18:17頃となる。広島厚生年金会館ホールはは意外に小さく15列目の私にもステージがすぐ目の前のように見える。正面のスクリーンにツアーロゴが映し出されると,Experienceのメンバーがステージに登場する。智生さんが今回は着飾っている。やがて静かに「Time after time〜花舞う街で 劇場版」のイントロが流れ,麻衣さんの歌が聞こえてくるがまだ姿は見えず,観客は固唾を呑んでステージを見守っている。やがて,ステージ中央の一段と高いところへ麻衣さんの姿がせり上がってくると,観客からは静かな拍手が巻き起こる・・・。しかし,まだ誰も立ち上がらない。麻衣さんは白いジャケットに黒いパンツ姿。とてもシックないでたちで「大人っぽさ」を演出している。切々とこの名曲を歌い上げる麻衣さんの声に聞き惚れるかのように,観客はまだ微動だにせずステージを見つめている。
しかし,「Love, Day After Tomorrow」のイントロが流れ始めると,恐る恐るではあるが観客は総立ちとなる。記憶があやふやだが,ここでジャケットを脱ぎ,ツアーパンフの表紙にも写っている白っぽいジャンパーに着替える。そして,次第に観客とステージがひとつになり,最初の「LOVE」の一声でL字の指を突き上げるとき,麻衣さんと観客の気持ちはひとつになった。歌に従い観客のノリもよくなってきて,大半の観客がLOVEの指文字も完璧。この日の麻衣さんの歌い方は平安神宮で見せたような妙にこぶしのきいたものではなく,CDに近いようなさらっとした歌い方。PVの美少女の姿がオーバーラップする。
曲は続いて「Secret of my heart」。歌詞がスクリーンに映し出されている。大ヒット曲の連発で,観客の興奮も昂まってゆく。ここでも,麻衣さんは素直にCDとおりに歌う。マイクスタンドを使うのは定番。曲が終わると本日最初のMC。
「広島の皆さんこんばんわ。倉木麻衣です。今日最後の最後まで皆さんと一緒に楽しんで行きたいと思いまーす。よろしくおねがいしまーす。」
「風のららら」のイントロが始まるが,のどが詰まったように一瞬最初のフレーズが出てこない。しかし,すぐに立ち直り伸びのある歌声でさわやかに歌い上げる。観客の手拍子のノリも良い。平安神宮のときはサテンドールとの掛け合いがちょっとぎこちなかったが今回は完璧。さわやかな風が感じられる歌声だ。
聞き慣れないイントロに観客が一瞬手拍子を躊躇すると「mi corazon」だった。麻衣さんは,ステージ中央にしつらえられた階段に座り,しきりに手拍子を煽りながら切々と歌い上げる。表情がドキッとするほど大人っぽい。途中にベースソロを挟みながら観客の視線を一点に集中させていく。
「えー,今日ここ来る前に,広島の街に触れてみたいなぁと思って,えー,広島の港に行ってきました。前に広島の街を見ているとすごくこう自然があふれていて,やっぱり緑があるとすごく落ち着きます。で,そんな港を見てすごく緊張していた気持ちもリフレッシュできて,広島の街ってすごく心を落ち着かせる場所なんだなぁって思いました。・・・また絶対来たいなぁっていうふうに思っています。・・・それでは次の曲なんですけれども,ちょっと静かな曲になるので皆さん方座って聞いてください。」
観客席から「はーい!」という若い女性の声がして,場内に笑い。
そして曲は「Tonight, I feel close to you」。一番はすべてのパートを麻衣さんが歌う。しっとりとした「濡れた」歌声で,CDよりも「色気」がある。二番はヤンツィのパートをギターアンプに腰掛けたジェフリーが歌う。この人はキーが高いので,麻衣さんとのデュエットも違和感がない。それにしてもすばらしい曲。本日のハイライトかもしれない。最後の方で一回甲高いハウリングが起こったのが唯一残念であった。
スツールが運び込まれ,腰掛けた麻衣さんがトーチの炎に囲まれて歌いだしたのは「The ROSE〜melody in the sky」。これもCDほど力を込めずさらりと歌い上げる。うまい。麻衣さんの歌唱力を云々言う御仁がいるが,この曲を聞けば尻尾を巻いて退散することだろう。
曲は一転して激しくなり,上着を脱いだ麻衣さんは長袖のTシャツ。右の肩の部分が切り取られていて肩と腋が丸見え,ぞくっとするほどセクシー。曲は「Perfect Crime」。この頃から今回の新たな試みである二人のダンサーの踊りが活発になる。あまり人気の高い曲ではないのだが,ここでの麻衣さんの歌はCDより大人っぽく,一つ一つのフレーズが観客の五感を刺激する。音程も(あたりまえのことだが)完璧に安定していて,この曲もCDで聞く数倍いい。
続いては「NEVER GONNA GIVE YOU UP」。最初のラップはジェフリーとの掛け合いだが,あえて聴こえないようにモゴモゴと演奏の中に沈みこませる。ほかの曲もそうだが,16〜17歳の頃に歌った曲を今ライブで歌うと,当時は感じなかった「色気」と言うものがにじみ出てきて,曲の色合いがずいぶん変わる。もう一回ラップが出てきて今度ははっきり歌われるが,CDでは「Baby I Like...」と歌うところを今回は「Grow, step by step...」と歌う。
CDとアレンジが少し違い最初は気がつかなかったが,「Stepping ∞ out」。古い曲で観客のノリは今ひとつだったが,麻衣さんは実に気持ちよく歌っている。
歌い終わると麻衣さんはステージ袖に消え,ジェフリーのボーカルでexperienceのメンバーによる「Black And White」。詳しく知らないが確かスティーヴィー=ワンダーの曲か?曲にあわせてジェフリーがメンバーの紹介をする。最後はキーボードのマイケル=リーがジェフリーを紹介。
曲が終わると,麻衣さんが着替えて登場。カーキ色?のカーゴパンツ?にところどころ敗れて穴が開いた赤いタンクトップの上に白いタンクトップの重ね着。肩からのぞく透明なビニール製のブラのストラップがなまめかしい。曲は「I don't wanna lose you」ダンサーのKuremiとTENが定位置の高い台から降りて来て麻衣さんと絡む。麻衣さんも一緒にステップを踏むが,その腕前は微妙。
曲は続いて「key to my heart」。この名曲を思い入れを入れすぎることなくスマートに歌う。この「ライト感覚」は今回のライブの特徴。肩の力が抜けているのが分かる。続いて間隔をあけずメドレーで「delicious way」。高音がきれいに響く。この曲にも色気を感じるが,16歳のMai-Kを髣髴させるフレッシュさがある。で,なぜかワンコーラスだけで終わると「Come on, Come on」になだれ込む。再び二人のダンサーが絡み,麻衣さんもステップを踏みながら右,中央,左と指差しおどる。その腕前はやはりちょっと微妙。曲はそのまま「Everything's All Right」。CDよりも「黒っぽく」仕上げられ,R&B色が濃い。体中で観客に訴えかけると言うよりは,自分で納得しながら歌っているような印象を受ける。
一瞬の空白があって「Brand New Day」のイントロが聴こえてくる。CDよりヘヴィに仕上がっている。ステージを右へ左へと動き回る麻衣さん。私はやや左にいたために,麻衣さんが向かって左へ来てくれたときには表情までが手に取るように分かる。美しい。魂が吸い取られるほど美しい。スクリーンに映る顔の方が大きいのだが,やはり生の表情が見たくて目を凝らして麻衣さんの顔を見つめていた。
曲は突然「Stand Up」。平安神宮やFTツアーにあったような「Na na na〜」の掛け合いはなし。途中で,「Stand up...」と皆も歌ってと煽る場面があるだけ,「1階席の皆さん一緒に歌ってください」「2階席」「皆一緒に!」と呼びかけ観客はこぶしを突き上げて大ノリ。しかし,FTや平安神宮に比べると編曲が大人しいのでちょっと残念。もっと派手でもよかったかな。
ここで「Stand Up」を使ってしまうとエンディングは何になるのかと不安だったが,
「それでは最後の曲になりました。Feel fine!」
と言って始まったのは「Feel fine!」。観客はこぶしを突き上げいやおうなく絶頂へと突っ走る。
麻衣さんは「ありがとう!」と言いながらステージを右へ左へと駆け巡り最後は大きくジャンプしてThe End.
そして,麻衣さんが消える。座席に腰を下ろした観客は拍手でアンコールを要求。しかし,なぜか「Mai-K!」コールが出ない。痺れを切らした私は大声で,「Mai-K! Mai-K!」と口火を切った。(これホント)私が4〜5回繰り返した頃,他の観客からも「Ma-K!」コールが始まった。ちょっといい気分。しかし,麻衣さんもexperienceもなかなか出てこない。我々は5分近くも拍手を繰り返しただろうか?長い長い「Mai-K!」コールのあと,ようやくステージ左からまず麻衣さんが,そして続いてexperienceのメンバーが登場。麻衣さんは何と紙をポニーテールに纏め上げ,(左右にM字型に分かれていないので,いわゆるマイケーヘアとはちょっと違う。Mai-Kネットで「広島ライブの直後」の動画が配信されているが,あれがそう。)カーゴパンツっぽい脇にポケットがついた少しはげた色合いのブルージーンズ?で,グッズ売り場で売ってる青いTシャツを着ている。(私も買った。(^_^;))。ステージ中央に麻衣さんが立つと,静かに観客に話しかける。
「アンコールありがとう。」
「それじゃぁ次に歌う曲なんですけど,5月19日にリリース予定の新曲です。」
「タイトルは『明日へ架ける橋』と言うものです。」
「辛いとき,そして苦しいとき,躓いているとき,そんなときにそこでストップせずに前進しようっていう気持ちをこめて作りました。聞いてください。」
そして,TVオンエア版より荘厳なムードにアレンジされたCDバージョンのイントロが流れ,しっとりと歌い始めた。感動的な曲・・・。ただ,歌いなれていないのか歌詞を間違えまくった。二番の出だしで一番の歌詞を歌ってしまった。その他にも一番の歌詞をもう一回・・・。(^_^;)他の会場でも間違えたと言うので,もう少しちゃんと覚えてね。麻衣さん。スクリーンに歌詞が映し出されなければ観客も気づかなかったろうけど・・・。しかし,そんなことは関係なく,麻衣さんのはいトーンボイスは冴え渡り,観客を虜にしてゆく。疲れたのか音程がやや不安定だったが,心にしみこむこの歌,大ヒットの予感がする。
「そう,あの広島にまた来れて,すごくうれしくて今日楽しみにしてきました。・・・流山と言うところで,広島のお好み焼きを食べたんですけれども,やっぱり本場はすごくおいしかったです。そう,今回ツアーが"Wish You The Best〜Grow, step by step"と言うことで,あの,タイトルの意味がみんなと一緒に,会場に来てくださるみんなと一緒に一歩ずつ成長していけたらなぁと言う思いを込めてつけてみました。それが今日ここ広島で,ツアーが始まってライブが出来ることにすごく感謝しています。皆さん今日はどうもありがとうございました。」
「ちょうど今年でデビューして5年目を迎えることが出来て,すごくあっという間だったなあっていうふうに感じています。やっぱり時が経つのはすごく早いなあというふうに感じて,でもその中で,この時間は早く過ぎてしまうんですけれども,一つ一つ大切に一日を過ごして行きたいなぁっと思って次の曲は作ってみました。Stay by my sideをお聞きください。」
そして「Stay by my side」が始まった。基本的には紅白歌合戦バージョンであるが,一番の途中までは麻衣さん一人だけでアカペラで歌われた。斬新なアレンジに客席は静まり返って,聞き耳を立てる。「倉木麻衣の代表作」だけあって,いまや「風格」さえ感じさせるようになった。ここにはもうあの教会で歌うもっさりとした少女の姿はなく脱皮した蝶が舞う。
そして,Give me a beat!の叫びとともに強烈なドラムビートが響き渡り,「今日は最後の最後までどうもありがとうございました。よかったら一緒に歌ってください。」と言って「always」が始まった。この曲だけは会場中がひとつになって,野太い男たちの歌声がホールを揺らす。最後にして最高の瞬間。always give my love to you...会場の心はひとつになって麻衣さんのメッセージに応える。うまくいかないこともあるけど今はがんばっていこうよ,きっといつかいいことがある。人生は捨てたもんじゃないよ・・・。そうさ,その通りさ麻衣さん。分かってるよ,言いたいことは。
ありがとう。すばらしい時間をどうもありがとう。今まで,どこか遠いところにいた麻衣さんがこのライブを通じて,ずっと自分の近くに来てくれた。これからもずっとずっと応援するからね。
そしていよいよ最後。「明日へ架ける橋」が流れる中,ステージ一番前でメンバーと手をつないだ麻衣さんが呼びかける。
「どうもありがとうございました。バンドのメンバーexperienceの皆さんでした。(マイクを使わず)皆さんありがとうございました。」
そして,いったんステージから全員が消え,観客が帰り仕度を始めた頃突然麻衣さんがステージにただ一人舞い戻り,
「みなさん,今日はどうも最後まで皆さんと一緒に楽しい時間を過ごせてすごくうれしかったです。どうもありがとうございました。・・・ありがとー。皆さんも気をつけてお帰りください。どうもありがとうございました。」
というと,今度は本当に去って行った。